こんにちは、おうどんです🍜
お客さん「かけうどん、1杯お願いします」
うどん屋さん「はい、出前ですね。うちは作らないので、隣の店に頼みます」
隣の店「うちも作らないので、向かいの店に頼みます」
向かいの店「……で、誰が作るんですか?」
(会話は説明用の架空の場面です)
うどん屋のリレーなら笑い話ですが、IT 業界ではわりと普通の光景です。
システムを作ってほしい会社から、元請、二次請け、三次請け……と仕事が流れていく。
これが、いわゆる多重下請けです。
そして、このリレーの最後尾で、実際にうどんを茹でているのがエンジニア本人。
おかもち(出前の箱)が手から手へ渡るたびに、だしが少しずつ減っていきます。
読者「だし、誰が飲んだんですか」
それを今日、追いかけます。
今日の結論を先に書いておきます。
- 多重下請けでは、間に入る会社が増えるほど、単価が途中で分けられ、指示が伝言ゲームになりやすい
- 契約の名前が「準委任」でも、現場で誰が指示しているかの実態で、偽装請負かどうかが判断される
- まず自分の商流(自分が何次で、誰と誰の間に契約があるか)を知ることから始める
- おうどんの考えでは、多重下請けは、誰も責任を取らないまま、みんなで少しずつ取っていく仕組み。それが業界の当たり前になっていることが、いちばんの問題
(この記事の業界の傾向や確かめ方は、SE 歴18年のおうどんの考えです。法律の話は、条文と厚生労働省・公正取引委員会の資料を確かめた範囲だけ書きます。法律相談ではないので、実際に困っている人は弁護士などの専門家に相談してください)
多重下請けとは:注文が「おかもちのリレー」になる構造
注文した会社と、実際に作る人のあいだに、会社がいくつも挟まる。これが多重下請けです。
間にいる会社が多いほど、リレーの走者が増えます。
まず用語をそろえます。
多重下請けは契約が何段もつながる構造の話で、各段の契約がすべて民法上の請負とは限りません。SES という呼び名だけで、準委任・請負・派遣のどれかが決まるわけでもありません。
| 用語 | 意味 | うどん屋でいうと |
|---|---|---|
| エンドユーザー | システムを使う会社。お金の出どころ | うどんを食べたいお客さん |
| 元請(一次請け) | エンドユーザーから直接仕事を受ける会社 | 注文の電話を受けた店 |
| 二次請け・三次請け | 元請から、さらにその下へと仕事を受ける会社 | 次々に頼まれる店 |
| SES | エンジニアの技術・作業を提供する業務形態の通称。契約は準委任などで結ばれ、おうどんの実感では準委任が多い | 店の人が、技術や作業を提供する(場所は契約による) |
| 準委任 | 法律行為ではない事務の処理を任される契約。請負のように仕事の完成そのものを約束する契約とは異なり、成果に応じた報酬を定める場合もある(民法656条・648条の2) | 「完成品」ではなく「茹でる作業」を頼む |
| 商流 | エンドユーザーから自分までの、契約のつながり | おかもちが通ってきた道順 |
| 中抜き | 実際の作業をせず、仕事を右から左へ流して利益を得ること(俗称) | 箱を受け取って、次の人に渡すだけの店 |
図にすると、たとえばこうです(説明用の架空の例です)。
エンドユーザー(システムを使う会社)
│ 発注
元請(一次請け)
│ 再委託
二次請け
│ 再委託
三次請け(SES 企業)
│ 雇用
エンジニア本人 …… 毎日いるのは、エンドユーザーの現場
読者「エンジニアが毎日いるのは一番上の会社なのに、雇っているのは一番下の会社なんですか」
そうなんです。机はいちばん上、給料明細はいちばん下。
間の会社とは、本人は一度も会ったことがない、なんてこともあります。
おうどん「つまり、エンドユーザーの家の台所で、三次請けの店の人が茹でている」
読者「家主さんと茹でる人のあいだに、店が2軒挟まってる……」
家主さんが「ちょっと薄味で」と言いたくなったとき、誰に言えばいいのか。ここが、あとで出てくる偽装請負の話につながります。
単価はどこへ消える? 1段ごとに、だしが少しずつ減る
おかもちが手渡されるたびに、走者が少しずつだしを飲む。単価の話は、だいたいこれです。
エンドユーザーが払うお金(単価)は、元請、二次請け、三次請けと流れるあいだに、それぞれの会社の取り分(マージン)が引かれていきます。
営業、契約の管理、社会保険、待機中の給与など、会社にも必要な経費はあるので、取り分があること自体はおかしくありません。
問題は、段が増えるほど、何もしない走者の分まで引かれていくことです。
そして、その分を払っているのは、エンドユーザーでも元請でもなく、最後に茹でているエンジニアです。
公正取引委員会は2022年6月に、ソフトウェア業の下請取引の実態調査を公表しています。
報告書の概要によると、資本金3億円以下の2万1000社を対象にアンケートを行い、不必要な「中抜き」事業者の存在を感じたことがあるという回答は次のとおりでした。
| 取引の位置 | 中抜き事業者の存在を感じたことがある |
|---|---|
| 全体(回答数 4,346) | 25.9% |
| 元請 | 18.5% |
| 中間下請 | 29.2% |
| 最終下請 | 33.5% |
下の段ほど、中抜きを感じている割合が高いんです。
これはソフトウェア業の法人回答者が中抜きの存在を感じた割合で、SES 業界全体の多重下請け率や、面談が面接として行われる割合ではありません。
読者「リレーの最後の走者ほど、『あれ、だし少なくない?』って気づくわけですね」
おうどん「最後の走者は、おかもちの軽さで全部わかる」
……軽いおかもちほど、悲しいものはありません。
概要では、こうした中抜き事業者の存在が、多重下請構造の多層化を進め、情報伝達の混乱を引き起こしやすくするなど、独占禁止法・下請法違反行為を誘引・助長するおそれがある、とまとめられています。
さらに、エンドユーザーや上流の発注者からの買いたたき・減額・支払遅延が、サプライチェーンを下へ連鎖する「下流しわ寄せ型」の問題も挙げられています。
ちなみに、おうどんの最初の会社では、単価は月65万円で、手取りは月30万円に届かないくらいでした。
ただ、自社より上に何段あって、各社がいくら取っていたのかは、当時のおうどんにはわかりません。なので、ここで内訳を作ることはしません。
単価と手取りのあいだの話(還元率)は、別の記事で書く予定です。
読者「65万円と30万円の差、全部どこかの会社のポケットですか」
手取りは税金や社会保険料が引かれたあとの額なので、差が全部マージンというわけでもありません。
このあたり、みんな雑に引き算してため息をつきがちです。おうどんもそうでした。
指示は伝言ゲームになる:注文がかけうどんから、かき氷へ
段が増えると、お金だけでなく、話も途中で変わります。
かけうどんの注文が、店を3軒経由すると、かき揚げうどんになり、最後にはかき氷になっている。
エンドユーザー「画面のボタンを、右に寄せてほしい」
元請「ボタンを右に寄せる、ですね」
二次請け「ボタンを右……あ、右クリックメニューを追加、ですね」
三次請けのエンジニア「右クリックメニュー、作りました!」
エンドユーザー「頼んでない」
公正取引委員会の概要でも、ソフトウェアの取引は当事者間で成果物について正確な共通認識を作りにくい特性があり、それが不当な給付内容の変更・やり直しを招き、多重下請構造とあいまって連鎖している、と指摘されています。
エンドユーザー・元請・下請間の契約内容が必ずしも明確でない、とも書かれています。
読者「じゃあ、エンジニアがエンドユーザーに直接聞けばいいのでは」
いい質問です。そして、これが次の章の地雷です。
SES の現場では、エンドユーザーとエンジニアが同じ部屋にいることも多い。直接聞けば早い。
でも、直接聞くのと、直接「指示される」のは、法律上は別物なんです。
難しい仕事ほど、下に降りてくる?
ここは、おうどんの主観の話です。
おうどんは SES として複数の現場で働いてきました。
その中で、障害の根本原因の調査のような、技術的に難しい話を、SIer 側から SES 側に任されることが多いと感じていました。
元請の人「この障害の原因、調べておいてもらえますか」
おうどん「承知しました。……ちなみに、どこまで調べた状態ですか」
元請の人「まだ何も」
出前のリレーで言えば、注文を受けた店が「作り方は、作る人がいちばん知ってるから」と、レシピごと最後の走者に投げてくる感じです。
……信頼されていると思うと、少しうれしい。でも単価は、いちばん下の段の値段なんですよね。
もう1つ、おうどんの最初の会社では、自社からはひとりで現場に入っていました。
周りは他社の人ばかりで、自社の営業が定期的に来ることもなく、ひとりでなんとかするしかなかった。
商流が深いと、同じ現場にいても、隣の人が何次の会社の人なのか、誰も把握していないことがあります。
読者「ひとりで知らない現場って、心細くないですか」
心細かったです。
でも、その現場でとんでもない知識や技術を持つ人と仲良くなって、いろいろ教わりました。それが、今のおうどんの知識と技術になっています。
構造は選べなくても、隣の席の師匠は選べる。ここは、多重下請けの数少ないおいしいところです(おかもちの中に、たまにえび天が入っている)。
ただ、えび天が入っていたからといって、だしを飲まれていい理由にはなりません。
🔰 ここまで読めば今日から困らない
- 多重下請けは、エンドユーザーと自分のあいだに会社が何段も挟まる構造。段ごとに単価が分けられ、指示が伝言ゲームになりやすい
- 公正取引委員会の調査でも、下の段ほど不必要な中抜きを感じている割合が高かった
- 現場で直接「指示」されているなら、それは契約の形と実態がずれているサインかもしれない。まず自分の商流を知る
ここから先は中級者向け:自分の商流を確かめる
ここから先は中級者向け。読み飛ばしてもOKです。
自分が何次の走者なのか。意外と、本人に知らされていないことがあります。
おかもちを運んでいるのに、どの店から受け取ったのか知らない状態です。
読者「知らなくても、うどんは茹でられますよね」
おうどん「茹でられる。でも、茹でたうどんの代金がどこで減っているかは、一生わからない」
ここからは、おうどんの考えで、自分の商流を確かめるときのポイントです。
自社に確かめること
- 自社が契約している相手(自分のすぐ上の会社)はどこか
- その契約は、準委任・請負・派遣のどれか
- エンドユーザーから数えて、自社は何段目か(わからないと言われたら、わからないこと自体を覚えておく)
- 現場で自分に仕事の指示を出すのは誰の役目か(自社の管理責任者がいるか)
聞き方の例です。
「現場で困ったときに、誰に相談すればいいかを知っておきたいので、契約の流れを教えてもらえますか」
責める口調ではなく、仕事を進めるための確認として聞くのがコツです。
読者「それで、『三次です』って言われたら?」
おうどん「まずは、その日の晩ごはんを少し豪華にする」
なぐさめではありません。ここからが本番だからです。
現場で観察すること
| 見るところ | ずれているかもしれないサイン(おうどんの考え) |
|---|---|
| 作業の指示 | エンドユーザーや元請の人から、作業の進め方を直接細かく指示されている |
| 勤怠 | 始業・終業・残業を、エンドユーザー側の人が決めたり承認したりしている |
| 配置 | 「あの人は外して」「この人を入れて」とエンドユーザーが個人を指名している |
| 自社の人 | 自社が作業を管理する体制が機能せず、必要なときに連絡もつかない |
この表は、準委任・請負として働く場合の確認用です。適正な派遣では、派遣先が仕事の指揮命令をすること自体は制度の前提です。
これは「この状態なら違法」という判定表ではありません。
実態がどうかは、次の章の基準で、個別に判断されます。
ただ、こうしたサインがいくつも重なるなら、契約の形と現場の実態がずれていないか、一度考えてみる価値があります。
読者「全部当てはまりました」
……その場合は、表を閉じる前に、次の章も読んでください。
偽装請負・二重派遣になりやすい構造
結論から言うと、契約書の名前より、現場で誰が指示しているかが見られます。
おかもちに「出前」と書いてあっても、中身が家主さんの台所で家主さんの指示どおりに茹でる作業なら、それは出前とは呼べない、という話です。
判断の基準は37号告示
派遣と請負の区別は、厚生労働省の「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」(昭和61年労働省告示第37号。いわゆる37号告示)で決められています。
請負の形の契約でも、次のような条件をすべて満たす場合を除いて、労働者派遣事業を行う事業主とする、という書き方です(主なものを抜き出しています)。
| 37号告示の条件(要約) | 現場でいうと |
|---|---|
| 業務の遂行方法の指示その他の管理を自ら行う | 作業の進め方は、自社が指示する |
| 業務の遂行に関する評価等の指示その他の管理を自ら行う | 仕事の評価は、自社がする |
| 始業・終業の時刻、休憩、休日などの指示その他の管理を自ら行う(単なる把握を除く) | 勤怠の管理は、自社がする |
| 労働者の配置等の決定・変更を自ら行う | 誰を現場に出すかは、自社が決める |
| 請け負った業務を、自己の業務として相手方から独立して処理する | 自社の仕事として、自社の責任で進める |
さらに第三条では、形だけ条件を満たしていても、法の規定に違反することを免れるため故意に偽装されたもので、真の目的が労働者派遣にあるときは、労働者派遣事業を行う事業主であることを免れない、とされています。
読者「つまり、表を全部埋めた書類を作れば……」
おうどん「書類に第三条が追いかけてくる」
準委任でも同じ。名前ではなく実態
おうどんの実感では、SES でよく使われるのは、請負ではなく準委任です。
これについて、厚生労働省の37号告示に関する疑義応答集(第3集)の Q1 は、準委任も請負と同様に、実態として発注者と受注者側の労働者との間に指揮命令関係がある場合には、契約の形式を問わず労働者派遣事業に該当し、労働者派遣法の適用を受ける、と答えています。
そして、請負契約等の形式をとりながら、実態として発注者が受注者の労働者に直接具体的な指揮命令をして作業を行わせているような場合を、いわゆる偽装請負という、とも書かれています。
Q3 では、受注者が管理責任者を選任していても、発注者側の人が直接、受注者側の開発担当者に指揮命令を行ってしまうと偽装請負と判断される、とされています。
管理責任者がすべての会議に同席していないだけで偽装請負になるわけではありません(Q3)。問題は、受注者自身が必要な管理・指揮命令を行っているかです。
Q8 で、この考え方はアジャイル型開発以外のシステム開発を請負業務とする場合にも当てはまる、とされています。
一方で、同じ疑義応答集では、発注者と受注者の開発関係者が対等な関係で協働し、受注者側の担当者が自律的に判断して開発業務を行っている実態があれば、密に情報共有や技術的な助言・提案をしていても偽装請負と判断されるものではない、とも書かれています(Q2・Q5)。
直接話すこと自体がダメなのではなく、指揮命令になっているかどうか、が分かれ目です。
読者「前の章の『直接聞く』は、セーフなんですね」
おうどん「聞くのはセーフ。家主さんが『麺は3分、そのあと皿洗い、残業ね』と言い出したら、話が変わる」
面談で人を選ぶことの扱い
疑義応答集(第3集)の Q7 には、スキルシートの話も出てきます。
発注者が特定の者を指名して業務に従事させたり、特定の者について就業を拒否したりする場合は、発注者が受注者の労働者の配置等の決定・変更に関与していると判断され、適正な請負等とは認められない、とされています。
一方、個人を特定できず、それによって個々の労働者を指名・拒否できるものでなければ、スキルシートの提出を求めたからといって直ちに偽装請負と判断されるわけではない、とも書かれています。
ここからは、おうどんの意見です。はっきり書きます。
おうどんが見てきた範囲では、SES の案件はほとんどが多重下請けで、現場との顔合わせもほとんどが面接です。
名目は「面談」。でも実際には、エンドユーザーや元請の人が出てきて、スキルや経歴、ときには人柄まで質問し、何人かを比べたうえで「この人で」と決める。合わなければ、後日「今回は見送りで」と返ってくる。
今も変わっていません。
これを Q7 の書きぶりと並べてみてください。
特定の者を指名して業務に従事させる。特定の者の就業を拒否する。
面談でやっていることと、ほとんどそのまま重なります。
「見送り」を就業の拒否と呼ばずに、何と呼ぶのでしょう。
読者「でも、業界のみんながやってますよね」
おうどん「みんながやっていることと、やっていいことは別」
名前だけ変えて同じことを続けているのは、業界全体で見ないふりをしている、とおうどんは考えています。
個々の面談が偽装請負に当たるかどうかは、事情しだいで個別に判断されます。ただ、それを理由に、業界の当たり前を問い直さなくていいことにはならないはずです。
なお、派遣契約の場合は別のルールもあります。厚生労働省の派遣先指針では、紹介予定派遣を除き、派遣先が人選のために事前面接などを行わないこととされています。本人が自らの判断で職場を確認するために訪問することとは別です。「面談」と呼び替えても、人選の実態は変わりません。
会社を選ぶときに面談をどう見るかは、別の記事(会社の見分け方)で書く予定です。
二重派遣は、職業安定法の労働者供給の話
もう1つ、多重下請けで出てくるのが二重派遣です。
厚生労働省の派遣に関する Q&A 資料では、いわゆる二重派遣は、派遣先が新たに労働者の供給元になり、雇用関係のない労働者を注文者に派遣していることになるので労働者供給に当たり、労働者供給事業は職業安定法44条で禁止されているから職業安定法違反になる、と説明されています。
ただし、労働者派遣法が無関係になるという意味ではありません。職業安定法違反を理由に、派遣事業者が労働者派遣法に基づく行政処分を受けることもあります。
読者「派遣の話なのに、派遣法じゃないんですか」
おうどん「預かったおかもちを、さらに別の店に貸し出すと、職業安定法の出番になる」
実際に処分された例もあります。
労働新聞の記事(2023年7月掲載)によると、3社にわたって労働者が送られていた件で、東京労働局がそのうちの1社に、職業安定法44条(労働者供給事業の禁止)に違反したとして、労働者派遣法にもとづく1か月の事業停止命令を出しています。この会社は発注元と請負の形で契約し、他社から供給を受けた労働者を、発注元の指揮命令のもとで働かせていた、とされています。
多重下請けそのものが違法というわけではありません。
ただ、違法でないことと、まともであることは別です。
段が深いほど、自社の管理責任者が現場から遠くなり、エンドユーザーが直接指示しやすくなる。おうどんの考えでは、偽装請負や二重派遣に近づきやすいのは、この構造のせいです。そして、その構造で得をしているのは、現場にいない会社のほうです。
ここから先は上級者向け:条文で見る多重下請け
ここから先は上級者向け。読み飛ばしてもOKです。
条文の書きぶりを確かめた範囲で書きます。どれも、個別の事情で結論が変わるので、「当たる可能性がある」までにします。
読者「上級者向け、急に六法全書の匂いがしてきました」
おうどん「だしは昆布から取る派なので」
職業安定法:労働者供給の禁止
職業安定法4条8項は、労働者供給を、供給契約にもとづいて労働者を他人の指揮命令を受けて労働に従事させることをいい、労働者派遣法の労働者派遣に当たるものは含まない、と定義しています。
44条は、次条に規定する場合を除き、何人も労働者供給事業を行ってはならず、労働者供給事業を行う者から供給される労働者を自らの指揮命令の下に労働させてもいけない、としています。
ポイントは、供給する側だけでなく、受け入れて指揮命令する側も条文に書かれていることです。
エンドユーザーにとっても他人事ではない、ということになります。
労働基準法:中間搾取の排除
労働基準法6条は、何人も、法律にもとづいて許される場合のほか、業として他人の就業に介入して利益を得てはならない、と定めています。
商流のマージンがこの条文に当たるかどうかは、契約の形や実態しだいなので、この記事では判断しません。
ただ、「人の働きに割り込んで抜く」ことへの警戒が、労働基準法の最初のほう、第6条に書かれている、というのは覚えておいて損はありません。
読者「6条って、かなり前のほうですね。だしを飲む人、最初から警戒されてたんですね」
だしの盗み飲みは、思っているより目をつけられています。
民法:準委任の再委託には許諾が必要
準委任は、民法656条で委任の規定が準用されます。
そして委任には644条の2があり、受任者は、委任者の許諾を得たとき、またはやむを得ない事由があるときでなければ、復受任者を選任できない、とされています。
つまり、準委任で受けた仕事を下に流す(再委託する)には、原則として発注者の許諾が要ります。
許諾があることと、エンドユーザーが全段の会社名を把握していることは別です。
実際の契約書で再委託がどう扱われているかは、契約ごとに違うので、ここでは「民法の原則はこう」として見てください。
読者「じゃあ、エンドユーザーは、何段下まで流れているか知ってるはずですよね」
おうどん「許諾があっても、全段の会社名まで把握しているとは限らないよ」
法律ごとの整理
2022年の調査でいう下請法は当時の名称です。2026年1月1日からは、改正により取適法(中小受託取引適正化法)になっています。
| 構造 | 関わる法律 | 何が問題になりうるか |
|---|---|---|
| 準委任なのに、発注者が直接指揮命令している | 労働者派遣法(37号告示・疑義応答集で判断) | 偽装請負 |
| 派遣された人を、さらに別の会社へ派遣 | 職業安定法44条 | 労働者供給(いわゆる二重派遣) |
| 雇用関係のない労働者を、指揮命令のもとで働かせる会社に送る | 職業安定法4条8項・44条 | 労働者供給 |
| 準委任の仕事を、許諾なく下に流す | 民法644条の2(656条で準用) | 復受任者の選任の制限 |
| 業として他人の就業に介入して利益を得る | 労働基準法6条 | 中間搾取(当たるかは個別に判断) |
| 上流の買いたたき・減額・やり直しが下へ連鎖 | 取適法(旧下請法)・独占禁止法(適用要件による) | 下流しわ寄せ |
読者「表にすると、だしを飲む方法がずいぶんたくさんありますね」
法律の数だけ、飲み方を禁止する理由があった、ということです。
おうどんの本音:SES の給料が上がらないなら、会社に尽くさなくていい
ここは、おうどんの意見の章です。口が悪いのは承知で書きます。
多重下請けの下の段にいる限り、給料はなかなか上がりません。単価は自分のいない場所で決まり、上の段で引かれた残りから、さらに自社の取り分が引かれます。
SES で働きたくない、という人が多いのは、おうどんの考えでは業界のイメージのせいではなく、この構造のせいです。
じゃあ、抜け道はあるのか。よく聞く案を、おうどんの見方で並べてみます。
| 案 | おうどんの見方 |
|---|---|
| SES が SIer を追い出して、全部元請けになる | 夢はある。ただ SIer は大手が多く、資本も顧客との付き合いも営業の人数も向こうが上。本気でぶつかれば、追い出されるのはたぶん SES のほう |
| SIer に転職する | 簡単に移れと言われても、入口から狭い。おうどんの見てきた範囲では、大手は学歴で入口が狭くなりがち。中途でも経験の見られ方で落ちることがある |
| 今の会社に尽くして、いつか報われるのを待つ | おすすめしない。待機になれば給料を減らされ、経歴の盛りを断れば仕事がなくなる。そういう会社に残業と忠誠心まで差し出す理由はない |
| 会社に尽くすのをやめ、自分の時間を取り返す | おうどんのおすすめ。下で詳しく |
読者「最後の案、急に冷たいですね」
おうどん「冷たいのは会社に対してだけ。契約にはきっちり温かい」
時間を売るか、成果を売るか
本業は、契約で決まった時間と中身の分だけ、きっちりやる。定時で帰る。浮いた時間は、副業か、次の単価を上げるための勉強に回す。
ただし、どの時間が自分のものかは、契約の形で変わります。
| 働き方 | 早く終わったら | 注意すること |
|---|---|---|
| 準委任で時間精算(SES に多い、とおうどんは感じている) | 残りの勤務時間は売った時間。副業には使えない | 勤務時間の外を副業に回す。客先の PC や客先の場所で副業はしない |
| 自分が個人で受ける、時間の拘束がなく成果物で報酬が決まる契約(民法648条の2、フリーランスの成果報酬・請負など) | 残りの時間は自分のもの。速いほど時給が上がる | 成果の中身と検収の条件を、契約で先にはっきりさせる |
2行目は、自分自身の契約の話です。会社員なら、自社と客先の契約が請負や成果報酬でも、自分の勤務時間は会社との雇用契約で決まっていて、早く終わっても残りの時間は自分のものになりません。フリーランスでも、時間の拘束がある契約なら同じです。
厚生労働省の副業・兼業の促進に関するガイドライン(令和4年7月改定)は、裁判例では労働時間以外の時間をどう使うかは基本的に労働者の自由とされているとして、原則、副業・兼業を認める方向が適当、としています。
会社が制限できる例として、労務提供上の支障がある場合、業務上の秘密が漏れる場合、競業で自社の利益が害される場合、自社の名誉や信用を損なう場合が挙げられています。副業を始める前に、自社の就業規則を確認してください。
仕事を2日で終わらせて、残りを全部自分のものにしたい。その気持ちは、おうどんもよくわかります。
それを堂々とやれるのは、成果を売れるようになってからです。そこまでが修行で、そこから先は、会社のためではなく自分のために速くなればいい。
おうどんが会社を変えられたのも、開発・保守・インフラ・WEB をひとりでこなせるようになって、ひとりでも大丈夫だと思えたときでした。入口は狭くても、出口はあります。
尽くしても守ってくれない相手に尽くし続けるのは、優しさではなく、ただの寄付です。会社に尽くす時代は、もう終わっている。おうどんはそう考えています。
業界への要求:個人の自衛で終わらせない
自分だけうまく抜けても、空いた席には次の新人が座ります。構造を変えるのは、構造を握っている側の仕事です。
おうどんの要求を、相手ごとに並べます(要求の中身はおうどんの意見です)。
| 相手 | おうどんの要求 | 関係する資料 |
|---|---|---|
| 間に入る会社 | 自分の段が何を担当し、何に責任を持つのかを、技術者本人に説明する。説明できない段はなくす | 公正取引委員会の実態調査(不必要な中抜き事業者が多層化と情報伝達の混乱を招く) |
| SES 会社 | 本人に、商流(何次で、誰と契約しているか)と契約形態を、聞かれる前に開示する | 37号告示(誰が指示・管理するかは契約形態で変わる) |
| 発注者・元請 | 面談で人を選ばない。技術力は、個人が特定できない形のスキルシートで確かめる | 疑義応答集(第3集)Q7、派遣先指針(派遣の事前面接) |
| 発注者・元請 | 再委託の許諾を書類の上だけにしない。何段下まで流れ、誰が現場にいるかを把握する | 民法644条の2(656条で準用)、職業安定法44条(受け入れて指揮命令する側も対象) |
| 業界全体 | 段が増えても技術者の待遇が良くならない商流を見直す | 公正取引委員会の実態調査(下流しわ寄せ型の問題) |
読者「これ、聞いてもらえるんですか」
おうどん「わからない。でも、言わなかったら来月も同じおかもちが回ってくる」
強い言葉だけで業界が変わるとは、おうどんも思っていません。だから、誰に、何を変えてほしいのかまで書いておきます。
単価と給料の関係(還元率)の開示は、次の記事(会社の見分け方)で書きます。
まとめ:おかもちの道順を知っている人は、だしを守れる
冒頭の、誰も作らないうどん屋のリレー。
次は、こう言えるといいですよね。
お客さん「かけうどん、1杯お願いします」
うどん屋さん「はい。うちは作れないので、作れる店を紹介します。お代は、その店に直接どうぞ」
お客さん「話が早い」
読者「それ、紹介した店の売上はどうなるんですか」
紹介料くらいは、もらっていいと思います。だしを飲まない範囲で。
段を減らすと、だしも話も、こぼれにくくなります。
自分の商流を知るのは自衛で、構造を直すのは、上の表の責任のある側の仕事です。両方そろって、やっとだしが守れます。
多重下請けで自分を守る第一歩は、自分の商流を知ること。
まずは、自社に「私の契約の相手はどこで、契約は何契約ですか」と1回だけ聞いてみてください。
答えが返ってきたら、今日のお昼は、だしまで全部飲めるかけうどんでどうぞ🍜
参考資料
- 厚生労働省:派遣先が講ずべき措置に関する指針 — 紹介予定派遣を除く事前面接等の特定目的行為と、労働者が自ら判断して行う事業所訪問の扱い
- e-Gov:民法648条の2・656条 — 成果に対する報酬、準委任
- 厚生労働省:副業・兼業の促進に関するガイドライン(令和4年7月改定) — 労働時間以外の時間の利用は基本的に労働者の自由、原則として副業・兼業を認める方向、会社が制限できる4つの例
- 公正取引委員会:ソフトウェア業の下請取引等に関する実態調査報告書(概要) — 2万1000社へのアンケート、中抜き事業者の存在を感じた割合(全体25.9%・元請18.5%・中間下請29.2%・最終下請33.5%)、下流しわ寄せ型の問題、情報伝達の混乱、契約内容の不明確さ
- 公正取引委員会:報道発表(2022年6月29日) — 調査の公表日と調査対象
- 厚生労働省:労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準(37号告示) — 派遣と請負を区別する条件、第三条の偽装の扱い
- 厚生労働省:37号告示に関する疑義応答集(第3集) — 準委任でも実態で判断(Q1)、対等な協働なら偽装請負ではない(Q2・Q5)、管理責任者がいても直接の指揮命令は偽装請負(Q3)、特定の者の指名・就業拒否とスキルシート(Q7)、システム開発全般への適用(Q8)
- 厚生労働省:37号告示の疑義応答集の掲載ページ — 契約形式ではなく実態に即して判断されること
- 厚生労働省:派遣に関する Q&A 資料(二重派遣) — 二重派遣が労働者供給に当たり職業安定法44条違反になること
- 労働新聞:3社にわたって多重派遣 IT業者に事業停止命令 東京労働局 — 3社を経由した労働者供給で職業安定法44条違反とされ、1か月の事業停止命令が出た例
- e-Gov 法令検索:職業安定法4条・44条 — 労働者供給の定義と禁止
- e-Gov 法令検索:労働基準法6条 — 中間搾取の排除
- e-Gov 法令検索:民法644条の2・656条 — 復受任者の選任の制限、準委任への準用
2026年10月時点の内容です。

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